現在のETC2.0のメリットは限定されたドライバーが対象だ。
将来的には万人が得するサービスを提供する可能性はあるが、残念ながら現段階では従来型ETCとの違いはほぼ無い。
車載器本体の値段が高いだけで、受けられるサービスは限られたドライバーだけ、というのが現状だ。
今回の記事は、そんな問題だらけのETC2.0について
- ETC2.0のメリットとデメリット
- ETC2.0独自の割引
- ETC2.0独自のサービス
- 買い替えのタイミング
以上を中心に解説する。
ETC2.0とは?メリットのおさらい
ETC2.0とは次世代ETCのことだ。
そもそも「ETC」とは「Electronic Toll Collection System」の頭文字を取ったもの。直訳すると「電子料金収受システム」となる。ノンストップ自動料金支払いシステムとも呼ばる。
- 料金所の混雑緩和
- 休日割引・深夜割引など割引サービス導入の簡易化
日本におけるETCの導入は大成功と言えるだろう。
一方「2.0」とは元々はIT用語である。2000年代中頃に流行った「web2.0」という概念だ。フラットでお洒落なデザインが好まれた。
「お金2.0」など、あらゆる著書に2.0が付与された。「ドコモ2.0」というサービスは盛大にこけたが、「○○2.0」という名前が世に溢れた。
ETC2.0もその流れの一つだ。サービス開始時は「ITSスポットサービス」と呼ばれていたが、2014年に「ETC2.0」と名称を変えた。2.0が流行り出しておよそ10年後である。
ETC2.0の機能はまさしく「2.0」
出遅れ感のあるネーミングだが、「ETC2.0」という改名自体はそう悪くない。
前述したように「web2.0」とはwebサービスの進化の概念だ。
それまでネット情報は「webサイトから読者へ」と一方通行によるものだった。ニュースや天気予報サイトのように読者は情報を拾うのみだった。
それがyoutubeやツイッターなどSNSの登場で、読者が情報を発信できる立場になった。webサイトは場所を提供するプラットフォームへと変化を遂げた。
- 従来型:インプット
- 2.0:インプット&アウトプット
もちろんニュースサイトのような従来型サイトも多く存在するが、コメント機能が付く読者も参加できるタイプが一般的だ。
ETC2.0のメリット
ETC2.0も利用者が情報を提供する。
プローブ情報(※後述)を発信することで渋滞や落下物などの情報を共有し、逆にそれらの情報を元に通知してくれる。
また、このサービスで渋滞を回避したルートを走ると高速料金が安くなる制度も予定しているという。
高速道路を途中で降りても「道の駅」を利用すれば降りなかった料金で精算するサービスもある(現在はICと道の駅が限定されている)
その他にも様々なサービスを予定している(時期は未定)
- ドライブスルーのキャッシュレス化
- フェリー乗船の簡素化
- 駐車場やガソリンスタンドの決済サービス
国土交通省のキャッチフレーズは「料金収受システムから運転支援システムへ」だ。
ETC2.0は圏央道の割引がある
ETC2.0車にて圏央道(茅ヶ崎JCT~海老名JCT、海老名~木更津JCT)、新湘南バイパス(藤沢~茅ヶ崎JCT)をETC無線通信により走行した時に割引がある。
※ETC2.0車載器を取り付けていても「現金」及び「ETCカードの手渡し」で決済した場合は割引適用外だ。
ETC2.0はETCコーポレートカードで優遇
ETC2.0の車載器を取り付けた「事業用車両」はETCコーポレートカードの割引率が最大40%になる。
事業用車両とは俗にいう「緑ナンバー」だ。白ナンバーの普通車両はETC2.0を取り付けていても30%の割引率だから注意して欲しい。
元々は2020年4月までという条件付きでETC2.0を取り付けていれば車両問わず40%の割引を受けられるETCコーポレートカードだった。
2020年4月からは一律30%になるところだったが、事業用車両のみ40%維持が延長された。
2022年3月末にはETC2.0の車載器を付けても事業用車両でも割引率は30%に引き下げられる予定である。
厳しい基準をクリアした緑ナンバーが優遇されるのは良いとして問題は自家用車である。ETCコーポレートカードだけの問題ではなく、一般的にETC2.0のメリットが感じられない。
メリットがないだけなら良い。しかし「本体価格が高い」「情報を発信するのは気持ち悪い」など、デメリットの方が大きく認識されているのが現状だ。
ちなみに現在のETC2.0大きなメリットは圏央道が割引きになることと事業用車両ならETCコーポレートカードが最大40%割引きになる割引サービスに特化している。
個人的にはETC1.5に留まっている印象だ。
ドライブスルーの自動決済を試験運用
2020年7月末、ケンタッキーのドライブスルーで「ETC」の決済を利用したサービスを試験的に運用すると発表した。
8月3日から相模原中央店で試験される。テスト運用のため事前に登録が必要だ。
武漢ウイルス第二派真っ只中のことであり、従業員と客の接触機会を減らせるため感染症対策の手段としてテスト運用する。
【ドライブスルーETCで代金決済】
ケンタッキーがドライブスルーの店舗などで、日本で初めてETCカードでのキャッシュレス決済を試験導入します。 pic.twitter.com/swEdEPD00E
— 日テレNEWS / 日本テレビのニュース・速報 (@news24ntv) August 3, 2020
面白い企画だ。ドライブスルーとETC決済は相性が良い。
だが今回のETC決済サービスは「ETC2.0」と「従来型ETC」で利用できることから、ETC2.0不要論が成り立ってしまう。
ETC2.0は本当に必要なのか問題
ETC2.0は情報を相互に交換することによって更なるサービスを広げようとしている。
だがこの2.0に否定的な意見も少なくない。
理由は単純だ。自分の「走行情報」をお上に把握されているのが気持ち悪いのである。監視されている気分になるのだ。
ETC2.0の収集するプローブ情報とは?個人情報は含まれない
収集されるデータはプローブ情報と呼ばれ国土交通省の「利用及び取り扱い方針」によると下記のような情報が含まれる。
- ETC2.0車載器及びETC2.0対応カーナビに関する情報
- 車両に関する情報
- 走行位置の履歴
- 急な車両の動きの履歴
プローブ情報はスマートフォンアプリ「Googleマップ」などでも収集している(渋滞情報は利用者の提供したプローブ情報が元になっている)
プローブ情報に「車両や個人を特定する情報」は含まれないのでまずは安心して欲しい。そしてプローブ情報は経路情報を活用したサービス以外には使用しないと念を押している。
プローブ情報はITSスポットでアップロード
プローブ情報やそれを元に分析された渋滞情報などは高速道路に設置された「ITSスポット」で送受信をしている。
この「ITSスポット」の設置だけで250億円つぎ込んだと言われている。莫大な先行投資したのにも関わらず、集めたプローブ情報もほぼ生かされていのが現状だ。
個人的な意見を書かせてもらえば、「ETC2.0事業は莫大な予算を注ぎ込んでしまった手前、後に引けない状況」ではないだろうか。深読みし過ぎだろうか。
国土交通省は民間企業と提携しサービス拡大を図っているが、ETC2.0に特化したサービスはほぼない。※前述したドライブスルー決済は従来型ETCでも可。
そもそもETC2.0の設置費用は、従来型より端末代が1万円ほど高く、利用者の負担が大きいのだ。
圏央道を頻繁に利用する人を除いて導入する必要性はあるのか疑問符が残る。
ETC2.0に買い替える時期
ではETC2.0に買い替えず現状のETC車載器のままで良い無いのか?と問われるとそうでもない。
2022年と2030年がETC2.0に変更するタイミングだ。
2022年から一部のETC車載器が使えなくなり、2030年にはセキュリティ企画が変更される為かなりの数のETC車載器が使えなくなると言われている。
故障などによる緊急性のある買い替え時の参考にしてもらいたい。
旧スプリアス認証の利用禁止
まず2022年12月1日から使えなくなるのは、2007年以前に作られた旧スプリアス認証の車載器だ。
今使っているETCが10年以上前に製造されたものなら対象になる可能性がある。ETC車載器のメーカーに問い合わせすることをすすめる。
この「ETC2022年問題」は2005年に改正された「無線設備規制」が関係している。
ETC車載器だけでなく、旧スプリアス認証を利用した無線機・電話機・オーディオ機器などのワイヤレス製品も利用できなくなる。
気になる製品を持っているならメーカーの公式サイトで確認することをすすめる。
新セキュリティ規格
2030年の「新セキュリティ規格の変更」は多くのETC車載器が対象になる可能性がある。
現在発売されている車載器でも「旧セキュリティ」のものがあり、2030年に使えなくなる予定だ。
新セキュリティ規格とは、盗聴・不正防止を目的とした情報安全確保の規格だ。
「セキュリティ向上を目的とし、現行のものに問題が発生しているのではない」と国土交通省は説明している。
新セキュリティ規格の変更の時期は2030年を予定だが、現行のシステムに脆弱性が確認された場合は予定を早める方針だ。
新セキュリティ規格の判別法(従来型ETC)
新セキュリティの判別方法はETC車載器本体で確認できる。
「●●●」のマークがあれば新セキュリティ規格に対応しており、2030年以降も継続して利用できる。
新セキュリティ規格の判別法(ETC2.0)
ETC2.0車載器でも新セキュリティ規格に対応していないケースがあるから注意が必要だ。
「DSRC ETC」もしくは「■」のマークがあるETC2.0車載器は新セキュリティ規格に対応していない。
2030年に規格が変更されたら利用できなくなる。
ETC2.0についてまとめ
ここまで書いたETC2.0のサービスやメリット、買い替えのタイミングを簡単にまとめる。
- 圏央道の割引
- ETCコーポレートカードの割引アップ
- 一部の「道の駅」利用で乗り降り免除
ETC2.0のメリットは一部の人に限定されるようだ。
- 車載器本体の値段が高い
デメリットはETC車載器本体の値段。1万円ほど高くなる。
ETC2.0のメリットは増える予定ではあるが、現段階では無いに等しい。
今のところ買い替えの理由としては「2022年の旧スプリアス」と「2030年の旧セキュリティ」だが、メリットが少なく値段が高い「ETC2.0」を選ぶ必要はないように思える。
そもそも料金所のゲートをノンストップで開ければ問題は無い一般利用者は多い。渋滞情報はカーナビ、無ければスマートフォンプリで事足りる。
そう、ETC2.0の最大のライバルはスマフォアプリだ。
iphoneが日本に上陸したのが2008年、少し遅れてgoogleがアンドロイドを発売した。スマフォ市場は劇的に進化した。
ソフトウェア開発のスピードは目を見張るものがある。流行らなければ欠点を修正しアップデートするだけで良いのだ。ソフト屋の強みである。
一方のETC2.0は後戻りが難しいハードウェアから開発を進めた。
前述したが「ITSスポット」の設置だけで250億円だ。更に対応したソフトウェアの開発や利用者の負担も重くのしかかる。
利用者はバカではない。付随するサービスのメリットとデメリットを見極め、市場をしっかりと調査してより良いサービスを選択する。
利用者のニーズをスピーディーに対応するスマフォアプリが選ばれるのは火を見るよりも明らかだろう。
「お役人様が考えたすごい企画」よりユーザビリティの高いアプリが数多くある。
しかしETC2.0には国が関わっている強みがある。
ETC2.0に特化した割引サービスやキャンペーンが拡大される可能性は十分にある。武漢コロナで中止になったが助成金が出ることもある。
国がETC2.0の普及に本気で動けば、買い替え時の補助金が出る可能性も否定できない。
最近では10年乗る車も珍しくない。良い機会だからとETC2.0を選ぶ必要はないが、これを機にETCとETC2.0について考えてみてはいかがだろうか。